秘密の地図を描こう
08
キラとニコルがそろっていたからか。チェックの方は早々に終わった。
しかし、だ。どうしたことか、ケーキをおごってもらうのはもう少し先になりそうである。
「だから、ちょっとでいいからさ。シミュレーションにつきあってくれよ」
ミゲルが拝み倒すようにそう言ってきているのだ。
「でも……」
さすがにそれはまずいような気がする。
「最近、全然運動していませんし、体力的にも不安ですから」
倒れれば皆に余計な迷惑をかけることになるし、と苦笑とともに告げた。
「五分でいいからさ」
だが、ミゲルはあきらめてくれない。
どうしようかというように視線をニコルへ向けた。
「今日のところは我慢しておいたらどうですか?」
そうすれば、彼はこう言ってくれる。
「近いうちに、寮の改装があるでしょう? そのときに、キラの部屋に端末を置いてしまえば、いつでも好きなときにできますよ」
しかし、彼の口から出たのは予想もしていないセリフだった。
「……ニコル?」
えっと、と思わず視線を向けてしまう。
「そうすれば、キラの気分転換と体力回復の問題が解決しますし、こちらの技量も上がる。いいことずくめじゃないですか」
父を巻き込みました、と彼は満面の笑みとともに付け加えた。
ひょっとして、今回のシステム変更はそれも関係しているのだろうか。
「そういう問題じゃない、と思うけど……」
戦争が終わったから、開発陣が暇なのか……と思わずにいられない。
それとも、とさらに続けようとしたときだ。
「じゃ、それまで我慢することにして」
どうやら、キラの部屋にシミュレーターの端末があれば好きなだけつきあわせることができる、と判断したのだろう。ミゲルはにやりと笑うと口を開く。
「今日のところはキラの体力回復のために、喫茶店まで歩くか?」
少しは動かないとな、と彼は続ける。
「そうですね。その方がおなかがすいてよりおいしく食べられるでしょうし」
ね、とニコルは柔らかな笑みを浮かべた。
それは優しいはずなのに、何故か恐怖を感じる。何と言えばいいのか。ラクスのそれとよく似ているような気がするのだ。
「……たぶんね」
こういう笑顔を見せる相手には不必要に逆らってはいけない。
もちろん、キラの方に正当な理由がある場合は別だ。きちんと説明をして理解させられれば、逆に相手が味方になってくれる可能性が高い。
それが、今までの経験から学んだことでもある。
「でも、本当に僕だとばれないかな?」
キラは首をかしげながら言う。
「大丈夫です」
「そうそう。ニコルも一緒だしな」
ミゲルのその一言は地雷ではないだろうか。キラのその考えは間違っていなかったらしい。
「それはどういう意味ですか?」
教えてください、とニコルが詰め寄っている。
「かわいい顔して鬼教官、と言われているだろうが、お前は」
試験問題がかなりえぐいらしい、と聞いているが? とミゲルは負けじと言い返した。
「そんなの、当然です」
何がいけないのか、とニコルが言外に告げる。
「戦場なんて、何があるかわからないんですよ? えぐかろうが何だろうが、一人でも戦死するものが少なくなるならいいです」
違いますか? と彼はミゲルをにらみつけた。
「まぁ、そうだな」
否定できません、と彼はすぐにうなずく。
「と言うことで、今日はミゲルのおごりですからね」
満足そうにニコルが言った。
「何だよ、それ! 関係ないだろう!!」
ミゲルが文句を言う。
「行きましょう、キラ」
だが、ニコルはそれを無視する。そのまま、彼はキラの腕をとると、さっさと歩き出した。